2022年9月19日
眼窩解剖-2
4.上眼窩
上眼窩は図-3で示されるように、皮膚直下に眼輪筋、そして眼輪筋直下には眼窩隔膜(Septum)が存在する。また図-6は眼輪筋を切離し、眼窩隔膜に達した所である。眼窩隔膜は矢印で示された白い膜状組織でその下に上眼窩脂肪を包み込む。また図-7は皮膚切開法を用いた上眼瞼形成術を施行した際に上眼窩脂肪を展開したところであるが、上眼窩脂肪に到達するには眼輪筋とこの脂肪の境界をなす眼窩隔膜を切離する必要がある。上眼窩脂肪は中央、外側部は比較的発達しているが、内側部はさほど発達していないことが多い。図-8では横走靱帯を認める。眼瞼挙筋は横走靱帯を滑車に上眼瞼を開眼させる。
5.下眼窩
眼窩内で眼球と眼窩骨間を埋める黄色で示された組織は上下眼窩脂肪である。この脂肪量は東洋人で多く、加齢とともにその容積が増加する傾向にあり、いわゆるBaggy eyelid(目のたるみ)として典型的な老化兆候として認識されやすい。図-9は典型的な下眼窩脂肪の膨隆であるが、この脂肪は内側、中央、外側と3つのコンパートメントに分離されている。下眼窩脂肪に達するには下眼窩隔壁前面から進入する前隔壁アプローチと下眼窩隔壁後面から進入する後隔壁アプローチがある。図-10は前隔壁アプローチにより、下眼窩脂肪に到達しているが、その際は下眼窩隔膜を切離しなければならない。
また図-10では、経結膜的下眼瞼形成術の際に下眼窩脂肪内側、中央部をそれぞれピンセットでつまみ、上方へ引き出している。図-11は下眼窩脂肪外側部をペアン鉗子で把持している。図-12は下眼窩脂肪内部を横走するRockwood 靱帯である。Rockwood 靱帯は下眼窩内側から外側眼窩骨まで伸びており、下眼窩脂肪を固定する役割を担っている。上下眼窩脂肪の機能的役割は定かでないが、眼球を衝撃から保護したり寒冷地で暮らす人々にとって眼球を低温から守る断熱作用を有していると考えらている。
6.眼瞼挙筋とLower Retractor
図-1の緑で示された部位は、上眼瞼では眼瞼挙筋と呼ばれ、動眼神経の支配を受けて上瞼を開眼させる。眼瞼挙筋と瞼板接合部はハードコンタクトレンズを長期装用した場合や、加齢現象により弛緩することがある。同部位が弛緩すると眼瞼挙筋の上瞼を挙上させる力が伝わりづらくなり、いわゆる”眼瞼下垂症”が出現する。また眼瞼挙筋下にある青色組織は交感神経支配を受けるミュラー筋と呼ばれる筋組織で、この筋肉も上瞼の開眼に関与する。図-13矢印は眼瞼挙筋が瞼板へ付着する筋膜移行部を示す。筋膜移行部近位にはピンク色をした眼瞼挙筋自体も認められる。下眼瞼では上眼瞼の眼瞼挙筋が退化し、筋肉から結合組織状のLower Retractorと呼ばれる組織に置換されている。Lower Retractorは何ら機能を有していない。経結膜的下眼瞼形成法ではLower Retractorを切離しながら進入する。
7.眼窩結膜
灰色で示された上眼瞼ミュラー筋、下眼瞼Lower Retractorの眼球面は眼窩結膜で覆われている。眼窩結膜は上下天蓋部(Fornix)で折り返し、眼球結膜へと移行する。したがって経結膜的下眼瞼形成術で下眼窩内に局所麻酔剤を注入する際、眼球結膜に局所麻酔剤が移行し、図-14の如く眼球結膜が浮腫状となることがしばしばある。
8.外眼筋
赤色で示された組織は外眼筋の一部であり、上眼瞼では上直筋、下眼瞼では下直筋と呼ばれる。これらの筋肉は眼球運動機能に関与しており、上直筋は眼球上転運動、下直筋は眼球下転運動を司る。外眼筋にはこれら以外にも内側直筋、外側直筋、上斜筋、下斜筋と全部で6個の筋肉から構成される。図-1の黄色で示された筋肉は下斜筋であり、この筋肉は図-15の矢印の如く、しばしば経結膜的下眼瞼形成術の際に遭遇する唯一の外眼筋である。
下斜筋は下眼窩脂肪内側部と中央部を分けるように位置している。下斜筋は眼球外側から起始し、頭外側から尾内側に向けて斜走し、眼窩骨底に停止する。下斜筋は動眼神経に支配され、収縮すると眼球を上外側方に向ける作用を有する。経結膜的下眼窩形成術において下斜筋を損傷すると眼球上外側方運動に支障を来し、斜視や複視を引き起こす可能性があるので、注意が必要である。下斜筋以外の外眼筋に眼窩形成術を行う際に遭遇することはあり得ない。