2022年9月17日
美容医療、今後のあり方-2
美容外科を選択した理由
臨床医学は扱う疾患や部位により細分化されている。外科領域を例に挙げると、腹部臓器を扱う腹部外科、心臓を扱う循環器外科、脳を扱う脳神経外科、そし筋肉、神経、関節を扱う整形外科や、皮膚を含めた組織や臓器再建を行う形成外科などがある。私は何らかの外科医の道を選択し、初期研修としての5年間を整形外科領域で行った。整形外科はでは首から下の運動器手術を研修し、その解剖学的構造にも熟知することが出来た。
外科医としての初期研修が終了すると、自分の専門分野を選択することになる。私の場合、これまで経験したことのない顔面領域の外科的治療に大変興味があった。顔面領域の外科は、主に形成外科、耳鼻咽喉科や眼科など部位別に細分化されている。それは顔面構造が複雑であり、その取り扱いには高度な専門性が要求されるからに他ならない。整形外科医として初期研修を行った以上、再び形成外科等で初期研修を始めるのは重複する内容が多く効率的ではないと判断し、私は当時はどちらかというと特殊分野と見なされていた美容外科に注目した。それは美容外科であれば、整形外科初期研修で習得した技術を生かしながら、顔面外科を包括的に学ぶことが出来ると判断したからだった。
韓国美容外科医の話
毎年一度日中韓合同で行われる東方美容外科学会で、数年前から親交を深めている韓国美容外科学会副会長、Lee医師が私のクリニックを訪れた。Lee医師は韓国の高級市街地カンナムで開業し、成功を収めている韓国美容外科の将来を担う働き盛りの美容外科医だ。Lee医師のバックグラウンドは心臓外科だったが、その後美容外科医に転身し、現在自分のクリニックを13年前に開業した。
韓国と日本は国境を隔ており、顧客獲得などで競合しないため、美容事情について腹を割って話すことが出来る。昨年来、世界を激震したリーマンショックは、少なからず韓国美容医療業界にもマイナス影響を与えたことは言うまでもない。そこで私は韓国の美容外科の現状を事情を彼に尋ねてみた。
韓国の場合、リーマンショックによる経済的ダメージは日本以上で、美容系クリニックも勝ち組と負け組に大別されたらしい。特にダメージを受けたのは開業したてで方向性が定まっていなかったり、安定した顧客を得ていないクリニックだったとのこと。
私の場合もそうだったが、新規開業クリニックはクリニック立ち上げのため、銀行などの金融機関から資金を借り入れることになる。リーマンショック以前の韓国は景気が良く、韓国の貨幣が日本円やドルに対して価値の高い、いわゆる”ウォン高”の状態であった。そこで新規開業医たちは、このウォン高を利用して、金利の低い日本円を借り入れて開業していたのだ。
だが、外貨建ての借り入れを行うと、常に為替変動のリスクが伴う。不運なことにリーマンショック以来、急激に円高ウォン安の状態に陥り、なんと円の価値はウォンに対して一気に2倍近くに跳ね上がってしまった。つまり、円建ての借り入れをした新規開業医たちの借金はリーマンショックを契機に2倍に膨らんでしまったのである。この危機的状態に絶えることが出来ず、開業早々、廃業に追い込まれた美容外科医も少なからずいたらしい。