GINZA CUVO

ハワイ・オアフ島の形成外科クリニック

国・地域により治療のニーズは異なるので、普段自分のクリニックで行っていない治療に触れるため、僕は定期的に様々な場所に出かけるようにしていて、今年2月には前回ブログで記載した如く韓国・ソウルに鼻形成手術見学に出かけた。

 

鼻以外の顔面形成外科治療は当クリニックで頻繁に行っているものの、体幹部位治療は少ないので今回は米国・ハワイの知人形成外科医のクリニックを訪れた。というのも美容外科治療を見学するにあたって、いきなり見ず知らずのクリニックを訪れる訳にはゆかず、やはり知人クリニックを訪れるのが見学承諾を得やすいからだ。

 

ハワイ・オアフ島市街地で長年開業するベテラン形成外科医・パスクワレ医師のクリニックでは乳房形成、腹部下半身脂肪吸引、そして下腹腹部が垂れ下がり、脂肪吸引のみでは解決出来ない症状を解決する腹部除脂術を専門に行っており、こういった日本では稀な症例を見学しに行った。

 

今回3日間のオアフ島滞在で見学したのは腹部除脂術、男性に生じた女性化乳房修正術、そして鼻側に生じた皮膚がん(基底細胞癌)手術だったが、どれも日本で遭遇する機会が希な症例だったため、大変興味深く見学させてもらった。

 

腹部除脂術(Tummy Tuck)

最初の症例となった腹部除脂術は、下写真の如く余った皮膚と皮下脂肪が下腹部に覆い被さるほど弛んでいる場合で、皮下脂肪を脂肪吸引で吸引するだけでは治療効果が乏しいため、皮膚・皮下組織を一塊にして切除する方法で、欧米人の肥満症例ではこの治療が必要になる場合が少なくない。一方日本人の場合はたとえ肥満に陥っても皮膚・皮下組織に弾力性がありため、欧米人に認められるような皮膚が下腹部で覆い被さることは少なく、脂肪吸引のみで事足りる場合が殆どである。

 

この手術のポイントは弛んだ皮膚・皮下組織を腹部筋肉の上で腹部上部レベルまで剥離し、余った皮膚を切除するが、その際当然お臍の位置が上方移動するので、新たなお臍が収まる箇所を上腹部皮膚に形成するところである。決して難しい手術ではないが、剥離範囲が広範囲に及ぶため全身麻酔で行う必要があるのと、術後も感染症等を起こさないよう、適切なケアをすることも肝心である。

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男性の女性化乳房修正術

次に行ったのが男性の女性化乳房修正術だが、下写真症例は30歳の米国人男性で、ご覧の通り体幹部は良く鍛えられているものの、乳房がやや女性のように膨らんでいる。その原因はこの男性がボディビルディング・トレーニングを行うにあたり、ステロイドホルモン用を多用し、そのホルモンの一部が女性ホルモンへと変化したため、女性化乳房が生じたというのがパスクワレ医師の見解だった。

 

治療は腋窩部から脂肪吸引を行った後乳輪部切開を行い、そこから脂肪吸引で除去しきれなかった余剰軟部組織を一塊にして切除したが、この男性の女性下乳房症例は意外にも多く、米国男性たちはこの症状を忌み嫌うため、男性の体幹部治療として症例数が最近特に増えているらしい。

 

日本にも肥満男性などに女性化乳房が発症しているケースは少なからずあるが、日本人男性の場合、体幹部への美意識が低かったり、そもそも自分の乳房が女性化していことに気づいていない、もしくは対処法があるとは知らず、そのまま放置している場合が少なくないようである。

 

だが女性化乳房は1度気にすると、何とかしたいと思うのが人情であったり、特に体を鍛えて男性らしくありたいと願う男性には耐えがたい症状なので、外科的手段を用いてでも解決したいと考える男性たちが近い将来日本でも増える可能性が高い。

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左鼻横に生じた皮膚がん(基底細胞癌)

最後に観察したのが49歳白人男性の左鼻横に生じた皮膚がん(基底細胞癌)だったが、その診察に僕も参加して驚いたのが皮膚がん所見がなかったこと、すなわち皮膚がんを示す皮膚病変が全く存在しなかったことだった。

 

この男性の鼻横の皮膚の色調や性状に全く変化なく、どのようにその癌を発見したのかが今ひとつ釈然としなかったが、最終診断はバイオプシーと呼ばれる同部位皮膚細胞採取とその細胞の顕微鏡診断による悪性度の有無で、その結果この男性のケースは皮膚がんと証明されたのだ。

 

手術は鼻翼横にある皮膚を直径5ミリ程度、すなわち直径30ミリ程度の皮膚がんより直径20ミリほど大幅な余裕をもって円形切除した。このような拡張皮膚切除を行うのは、皮膚がんが周囲組織への浸潤・転移するのを確実に回避するためであった。

 

そして左鼻翼横で大きく欠損した皮膚領域は、下図の私がこの手術見学中にメモしたスケッチの如く、ほうれい線下にV字切開を加え、腫瘍切除で欠損した部位にその皮弁を移動させた後、Y字型に縫い合わせる形成外科の代表的処置を行った。

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このV-Y advancementは形成外科領域で、皮膚欠損部を被覆する有茎皮弁移植法としては最も有名な方法だが、悪性皮膚腫瘍の少ない日本では遭遇する機会が少なく、こういった症例を見学出来るのがわざわざ米国まで足を運んだ理由である。

 

本見学のまとめ

今回の米国手術見学では

1腹部除脂術

2男性に生じた女性化乳房改善術

3鼻翼横に生じた基底細胞癌根治術

の3件の治療に立ち会った。

 

日本での日常診療では同様の治療に対処することが多く、ともすると形成外科・開業医としての仕事がマンネリ化しやすいと言われるが、今回の見学で普段遭遇することのない症例を経験し、大変良い刺激となったが、この貴重な経験を今後の診療に役立ててゆこうと思う。

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極寒のソウル

ソウルは空路3時間弱と日本から一番近い隣国なので、僕は一泊二日の旅でこの地を訪れた。2月中旬のこの時期、翌週からは韓国・ピョンチャンで冬期オリンピックが初開催されるのせいか、ソウルはいつも以上の賑わいを見せていた。

 

だが同時にこの時期朝鮮半島は極寒が訪れる時期でもあり、気温-10℃の極寒風が大陸から東に向かって吹き付け、ほんの10分程度外出するだけでも、生命の危険を感じるほどの寒さに、大陸で暮らす人々の生活厳しさを思った。

 

午前9時に僕は患者さんとシミアン・クリニックにろびーで待ち合わせたが、まだ早朝だったせいか付けたて暖房が効いておらず、クリニック内も冷え切っていたものの、次第にクリニック・スタッフや患者が集まり始め、いよいよ診療・手術が始まる雰囲気が漂い始めた。

 

このクリニックは手術室が3室並列で並んでおり、なんと僕の患者さんが手術室に呼ばれた頃にはすでに他2室で別手術が同時進行していた。院長のドン・ジョンハク医師はその患者の一人を執刀中で、僕は早速その手術を見学させてもらった。

 

鼻専門クリニックでの手術

韓国で一二を競う鼻形成を専門クリニックともなると手術症例がとても多く、手術効率を重視するようで、手術も医師がローテーション形式で行っている。具体的にいうと手術の初期段階、すなわち鼻を展開(開ける)までを担当する医師、次に鼻形成を実際に行う医師、そして閉創(開けた鼻を閉じる)医師の三人が一人の患者を担当している。

 

つまり、第1手術室で鼻を展開したA医師は次に第2手術室へ移動、次の患者さんの鼻をすぐに展開し始める。その頃第1手術室ではB医師が鼻形成を開始、そして第2手術室の鼻展開を終了したA医師は第3手術室でで次の鼻展開を行う。その頃第2手術室でB医師が鼻形成を行い、第1手術室で鼻形成を終えた患者さんは新米のC医師が閉創するといった具合である。

 

日本では一人の医師が鼻展開・形成・閉創までの全工程を行うのが一般的だが、ソウルのこの鼻専門クリニックの如く、三人の医師が同時に三人の患者さんをローテーション形式で手術を行うと、1人で全行程を行う形式より一日にこなせる手術件数が2~3倍増えるはずである。

 

経営面からするとローテーション形式にすることで、収益性が高くなるメリットがあるだろうが、一人一人の医師作業がまるでチャップリンの映画”モダンタイムス”で比喩された自動車生産ライン・オートメーション作業の一旦を担うような単純化されたものとなる。したがって、この効率重視の手術形式が全面的に賞賛される訳ではないが、その効率性を見れば大変優れたシステムと言わざるを得ない。

 

出来映えの良い手術結果

僕が同行した患者さんに行われた手術は、鼻形成手術の定石を踏まえた確実なもので、さすが毎日数多くの症例をこなしているだけあって、安定した良好な結果が得られるであろうことはその手技を見学しているだけで容易に判断出来た。

 

そしてこの鼻形成手術自体、さほど困難なものではなかったが、何事もそうだが毎日同様な治療を数多くこなしているほうが、そうではないよりも間違いなく良好な成績が得られることは言うまでもない。

 

それは執刀医のみならず、麻酔を含めた手術準備、手術助手などコメディカルの流れも、良好な手術結果を得るには極めて重要で、そういう流れが淀みのない綺麗な川の如く循環していれば、手術前からその成功は目に見ていると言っても過言ではないだろう。そのような円滑な流れがこのクリニックに存在しているのを僕は本手術見学を通してすぐに察知した。

 

僕が同行した患者さんの鼻形成は当然院長のドン・ジョンハク医師が担当し、手術中彼は僕に患者さんの鼻高・形への意見を求めたが、カウンセリング時からやや控え目な形にすると合意していたので、特に問題なく手術は一気に終了した。

 

患者さんとの僕のクリニックでの再会

ドン・ジョンハク医師は手術の終了間際、にこにこしながら僕に「久保先生はこのあとピョンチャンオリンピックを見に行くのですか?」と尋ねたので「いいえ、他の患者さんたちが待っているので明日日本に戻ります」と答えると「まあ、せっかくの機会なのに!」と驚きながら答えた。

 

手術後患者さんは休憩室に運び込まれ、そこまでで僕の任務も終了となり、僕は患者さんに手術はすべて滞りなく成功に終わったことを説明し、帰国のためソウル金浦空港へ向かった。

 

それから1ヶ月半近くが経過した3月初旬、この患者さんが僕のクリニックを訪れたが、案の定、鼻形は以前と比べて違和感のない自然で美しい形へと改善され、患者さんはその結果に大変満足していた。

 

これにて今回の鼻修正手術は一件落着したが、この症例を通して僕は美容外科医療を扱う医師として改めてさまざなことを学んだ。それは医師は僕もそうだが、良くも悪くも医師として患者さんから常に尊敬される立場にあるせいか大変プライドが高く、自分が限りなく有能だと勘違いしている場合が少なくない。

 

美容医療に携わる医師の戒め

今回最初にこの鼻形成を行った日本のとある医師は、決して多くの症例経験がないにも関わらず治療を強行したため、満足のいく結果に至らなかったのであろう。

 

我々医師はあくまで限られた能力を有した一介の人間であることを自覚し、どんな状況でも必ず良い方向に導ける治療のみをこの医師が引き受けていれば、今回のようなケースに陥ることはなかったはずである。

 

したがって医師たちは、自信のない症例や明らかに経験不足の症例の治療強行を思いとどまる勇気を持ち、そういった症例は今回の僕のようにその道の専門医にお伺いを立てるといった、慎重な姿勢が肝心である。

 

最後に医療は人々を幸福に導くために行っており、決して医師のプライドや儲けの犠牲として患者さんを不幸に導いてはいけないことを我々医師は今一度戒めるべきである。そして診療にあたっては、常に初心に返るくらいの謙虚で慎重な姿勢望むべきと僕は今回の経験を通して改めて考えさせられた。

 

 

過去にソウルで学んだ美容外科手術

 

今から15年近く前十仁病院勤務していた頃、僕はしょっちゅう韓国・ソウルの美容外科学会を訪れ、そこで知り合った著名な美容外科クリニックを訪れ、手術見学をさせてもらった。

 

そういったクリニックで見学し、学ばせて頂いた知識や手術は大変価値があり、僕が美容外科医として現在生業を立てられるようになったのも、あの時ソウルで得た貴重な経験のお陰と言っても過言ではない。

 

このようにソウルで多大な恩恵を得た僕だが、開業医としての実務が忙しくなるにつれ、以前のようにソウルを頻繁に訪れることは出来なくなった。

 

特に僕は眼周囲のアンチエイジング外科治療を前面に打ち出して開業したので、治療内容も目元中心となり、かつてのように鼻をはじめ、全身の美容外科医療に触れる機会から次第に遠ざかってしまった。

 

そもそも医師の学会参加は医師の本分として、医学発展・進歩に貢献すべく最新知見を習得するためである。ところが僕のように極めて専門性の高い治療のみに専念すると、学会から得られる知見は限られ、学会参加よりむしろ、同じ分野でしのぎを削る専門医の論文を読むことのほうが遥かに有意義であることにも最近気づいた。

 

それ以来僕は、学会参加の代わりに論文・専門教科書執筆に時間を費やすようになったが、これだけ長い間美容医療に従事しても、この医療全体への関心・興味はいまだに尽きず、機会があれば自分の専門以外の勉強を続けたいと思っている。

 

鼻形成を受けたナイーブな若い女性

 

そんな矢先、僕のクリニックに他院で行った鼻形成術後の相談患者が訪れた。この患者さんは23歳の今時の若い女性だったが、大変美意識が高いもにも関わらず、美容外科情報はあまり持ち得ない純粋無垢なタイプであった。

 

彼女の話しを聞くと、やや低めの鼻をコンプレックスに感じ、ネット検索で知ったある美容外科クリニックを訪れたとのこと。純粋な彼女は、そのクリニックで言われた治療内容を全く疑わず、言われるがままに鼻形成術を受けたらしい。

 

だが残念ながら治療結果は不満足なものとなり、その修正・改善の余地を求めて僕のクリニックをはじめ、さまざまなクリニックを廻り、セカンド・オピニオンを求めている最中だと言う。

 

”後悔先に立たず”という諺があるように、この患者さんは治療前、もっと慎重に鼻形成専門の優良医院を選択すべきだったが、現実はそうとはゆかず、手術を受けた結果誰が見ても不自然か鼻形となってしまった。

 

だが意外にも楽観的な彼女はそんな苦境にもめげず、得られた結果を健気にも受け入れようと努力したが、手術後、友人や職場の知人から不自然な鼻形を指摘されるようになり、修正する気持ちを次第に固めたのだと言う。

 

不適切な鼻形成手術

 

さて彼女の鼻を診察した僕の評価だが、鼻上部(鼻根部)が高過ぎで不自然、また鼻先(鼻尖部)部延術がなされていたが、不適切な操作のため、鼻先が上向き過ぎていかにも整形したことがわかるような形であった。

 

僕はこの患者さんに、治療を行った担当医に現状の問題点・不満を伝えたのか尋ねたところ、彼女は経過受診し担当医の見解を得ており、この担当医はこの患者さんの不満を認めたとのこと。

 

だがこの担当医師の見解はこの医師の修正は技術的に不可能なの自ら修正治療を行うのを拒否し、患者さがもし今後修正を望むのであれば他院で行うようにと指示したらしい。

 

つまりこの担当医は治療結果の不具合を認めはしたものの、修正治療・治療費返金を拒否し、極めて温厚で純粋な性格のこの患者さんはそれを鵜呑みにして、あらたに修正治療を行える医師を捜しているのだ。

 

本症例の如く、医療知識の乏しさや、純粋(ナイーブ)な性格のために、疑わず事を知らずに不適切な医療行為の犠牲者となる医療弱者(患者さん)が予想以上に多くいたり、このような不適切な治療をしても意に介さない悪徳医師が現実に存在している。

 

このような無責任な治療行為は、美容医療業界全体の評判を著しく貶めるので、利益優先でそのような不適切な治療行為を行っている医師・施設も、結局は巡り巡って自分の首を絞めることになるが、そのような簡単な事実にすら気づかない連中が意外に多いのかもしれない。

 

僕はこの患者さんを何とか救いたいと考え、上述した韓国ソウルの鼻専門医師に彼女を紹介することとし、この機会に彼女の手術見学を兼ねて久しぶりにソウルを訪れることにした。

 

クリニックで日々診療していると、クリニックを訪れるお客様をはじめ、クリニック従業員、医療材料・器機、ネット関連、クリニック清掃、書籍出版、また最近では中国人顧客を紹介してくれる紹介業・通訳者など多くの人々と関わります。それ以外にも社会保険労務士、顧問弁護士、顧問税理士たちとも密に連絡を取り合っている。

 

今から13年前、僕は自分の意志でこのクリニックを立ち上たが、その際も建築業者、医療業者さん達のお陰でなんとか開業に漕ぎ着けた。当時を振り返ってもあの時彼らの助けがなければ今の僕はなかったと思うと、彼らの好意に対して言葉に表せないほど感謝している。

 

先日、大学新卒でクリニックに入社した1人の従業員から「先生はあと何年くらい診療を続けるつもりですか?」と尋ねられたので、僕は即座に「僕はこの仕事が好きだしこれしか取り柄がないので出来るだけ長く、そうだね~、あと20年くらいはやるんじゃないかなぁ~」答えた。

 

するとこの従業員、続けて「そうですか。私もこのクリニックに長く勤められるのでそれを聞いて安心しました」と笑顔で返答した。僕はその時、もはやクリニック営業は自己都合ではなく、患者・従業員を筆頭に上述したクリニックに関わる多くの人々への責任が生じている事実に”はっ”と気づかされた。

 

開業して間もない時期であれば、自己都合でクリニックを閉院してもさほど責任問題は生じないが、僕のクリニックには今や1万人近くの顧客がいて、その方々たちから美容医療相談があれば、いつ何時も真っ先に応じる義務が生じているだ。そういった多くの人たちからの期待の中、もし自己都合でクリニックを閉じるとすれば、それはあまりにも身勝手、もしくは無責任ということになる。

 

長くビジネスを継続するにつれ、上述の如く重大な責任が発生するが、一方この責任はその見返りとして社会的信用力となって返ってくる。すなわち、その社会的信用力によりクリニックはより安定経営に繋がるので、むしろこの重大責任は歓迎すべきものであり、またビジネス成功者には必ずつきまとうものと考えるべきであろう。

 

特にクリニック診療は生きた人間を対象とするだけに、素晴らしい方にお会いして感動に胸震える経験をすることもあれば、逆に少々気むずかしい方を相手に不合理な思いをさせられ、それなりに辛い思いをすることもある。だがそういった苦い経験もポジティブに考えればそれは人生の糧になるわけだからそれも良しとし、また明日から頑張ろうと気分転換して翌日の診療を迎えれば良い。

 

銀座では最近、30代中半から後半の新進気鋭の美容外科たちが、かつての僕がそうだったが、成功を夢見て開業ラッシュが続いているとのこと。だが少子高齢化や美容外科を目指す医師の急増に伴い、銀座では既に美容医療が供給過多で、新規開業を目指している医師には前途多難な状況であるのに間違いない。

 

特に来年6月以降、厚生労働省が原則的にいわゆる”ビフォー・アフター”と呼ばれる症例写真のホームページ掲載の禁止を発表したため、開業成功は今後さらに厳しくなることが予想される。”ビフォー・アフター”写真の掲載禁止理由は、これらの写真を故意に加工・修飾して結果を良く見せて集客を図ろうとするクリニックが後を絶たず、それが原因で消費者庁に患者さん側からクレームが殺到したのが原因らしい。

 

このように美容医療提供側のビジネス運営に過酷な条件が突きつけられる中、この業界に新規参入する医師達は余程の信念と決意を持ち日々努力しなければ、明るい未来はやってこないであろう。だがこのような厳しい環境の中生き残った者こそ本物であり、そういった本物たちがこの医療を受けて良かったと思う顧客(ファン)を増やし、その結果美容医療の社会的認知・信用力が向上してゆく姿を、すでにベテランの域に達した僕は願って止まないのである。

 

つい最近まで美容外科では”美容整形”と呼ばれる、シリコン・プロテーゼを用いた隆鼻・隆顎手術、シリコン製バッグを用いた豊胸手術が主体に行われていた。僕が美容医療に飛び込んだのは2001年初頭だったが、それから早くも15年以上の歳月が過ぎ去り、その間日本の少子高齢化が急速に進んだせいか、美容医療ニーズも随分変化したように思える。

 

特にここ最近、老化現象を予防・解消する、いわゆる”アンチエイジング”美容外科がこの医療の主軸として台頭し始めた。この”アンチエイジング”美容外科の治療対象は、いわゆる”しみ”・”しわ”・”たるみ”であり、もはや以前頻繁に使われたシリコン・プロテーゼ、豊胸バッグの出番は激減している。

 

その代わりに台頭したのは、しみ”など色素性病変に有効なレーザー器機、しわ・たるみ改善に有効な集束超音波治療法(HIFU:High Intensity Focused Ultrasound)と呼ばれる超音波、もしくはラジオ波(RF:Radio Frequency)エネルギーを使用した最先端機器である。

 

また最近の手術手技では、顔面をはじめ、その詳細な解剖を把握した上で、美容・形成外科で用いる切除・除去・剥離手技をより高いレベルで習得し、そういった手技を治療ニーズに合わせて適切に応用する能力が不可欠である。また時代が進歩するにつれ、ナチュラルでより質の高い治療結果を求められるので、この医療に従事する医師達はそのニーズに答えるべく切磋琢磨に技術向上を図らねばならない。

 

この15年間、僕は自らこの医療に携わりつつ客観的に観察してきたが、上述の如く医療器機等は日進月歩にもかかわらず、この医療に従事する医師達の価値観・考え方はさほど進歩していないと感じる。医療は情熱を持った医師達がその知識を高め、技術を研鑽しつつ、その成果を学会・勉強会でフィードバックしコンセンサス(総意)を得ることでのみ、進歩してゆくのである。

 

ところが、この医療に従事する医師達の中にはそういった努力を怠り、その代わりにこの医療を利益追求ビジネス(商売)として利用するケースが後を絶たない。またそれぞれの医師達は唯我独尊的な医療を独自に展開する以外になく、各施設によって治療手技・主張が大きく異なってしまう。

 

その結果、この医療を求める患者たちは何が正しいかわからず路頭に迷うという、起こるべきではないことが現実に横行している。この医療に携わる多くの医師達がそういった態度を改めない限りこの医療の進歩は閉ざされ、いつまでたっても社会的評価も上がらず、巡り巡って自分たちの首を絞めることになるだろう。

 

我々美容医療に従事する医師たちは、お金儲けを最優先とする代わりに、医師の本分である勉学・研究にもっともっと力を注ぐべきである。そういった努力を行う医師が増え、この医療における筋の通ったコンセンサスが構築されれば、この医療の社会的信用が高まるであろう。その結果、多くの人々が美容医療の恩恵を享受するようになり、良好な医療を提供した見返りとして医師達も潤うという、良循環が得られ皆が幸せになれるはずであろう。

我が国では西暦2,000年(ミレニアム)が幕を開けてから、美容医療が盛んに行われるようになり、次第にその社会的認知度が増し成熟期を迎え始めている。その成熟とともに多くの医師達がこの医療に参入し、過当競争による集客のための宣伝が激化し、社会問題化し始めている。そこで今回僕は美容医療にまつわる広告とその問題、そして今後の展望について見解を述べたいと思う。

先ず始めに国民皆保険で行われる一般医療は、患者側負担は3割、残りの医療費は税金でまかなわれるので、患者たちは利便性や評判の良いクリニックを聞きつけてそこを受診することが多い。そして一般医療の集客見込みは、クリニック所在地範囲内の人口や、その範囲内に競合他院が何店舗あるのかなど、いわゆる”診療圏調査”を行うと、ビジネスとして成立するかどうか開業前にほぼ予想がつくであろう。したがって一般医療系の開業は、クリニック認知度アップのための駅前看板や、簡単な新聞折り込み広告程度で十分といわれる。

 

一方、美容医療は自由診療下で行われるため治療費は全額患者負担となり、患者は医療を受けるというよりも、むしろ高級品等を購入する感覚に似ている。美容医療は一般医療のような診療圏調査はほぼ不可能であり、そのクリニックがビジネスとして成立するかどうかはいざ始めてみなければ分からないハイリスク・ビジネスでもある。

 

次に、医療ビジネスにおける宣伝・広告について分析すると、その手法は2種類に大別される。上述の如く一般医療がクリニック存在を周囲に知らしめ、クリニック価値(ブランド・イメージ)を高める宣伝方法はPR(Public Relation、広報活動)と呼ばる。一方、美容外科のように自由診療下で、クリニックに患者を呼び込むための具体的広告はSP(Sales Promotion、販売促進)と呼ばれる。

 

そして一般医療で用いられるPR広告は看板・紙面媒体を主に用いるが、美容医療で有用なSP広告は、ほぼネット媒体を用いると言ってよい。ネット媒体は美容医療のように守秘性の高いものとの相性が良く、その理由はこの医療に関心あるユーザーは、”検索サイト”にキーワードを入力することで、自分のニーズにマッチした情報をピンポイントで誰にも知られずに入手出来るからである。

美容医療・提供側からすると、ネット上に治療の興味をそそる情報を上手に提示すれば、即座に顧客誘導可能となり、この方法は紙媒体・マスコミ宣伝の如く、この医療に無関心な人にまで伝える非効率な宣伝よりも遥かに効率的である。そのため今や美容医療系のほとんど全てのクリニックが、こぞってネット宣伝に邁進するようになった。

 

ネット広告は医療提供者がホームページ・広告ページを作成し、その内容をユーザーたちはキーワード検索で閲覧するが、その内容は新聞・雑誌など不特定多数の人々に露出する紙面媒体と異なり、ネット検索する人のみが得られる情報なので、ネット広告は紙面媒体のような広告宣伝とはこれまで見なされてこなかった。

 

医療系・広告宣伝は厚生労働省によるガイドラインで規正されているが、上述の如くネット情報は広告宣伝と見なされなかったので、故意に顧客誘導するような情報も規正なしにネット上に放置されていた。そこには、業界ナンバーワン、芸能人御用達クリニック、永久保証などの誇大広告や、いわゆる”ビフォー・アフター”と呼ばれる治療前後の比較写真が縦横無尽に掲載されている。

 

故意に顧客誘導する不正な手法としては、治療前(ビフォー)写真を故意に老けた状態で撮影し、逆に治療後(アフター)写真は化粧・照明を巧みに用いて魅力的に撮影することで、ビフォー・アフターに極端な差異が出るようにしたり、さらに悪質な場合は治療後の写真をフォトショップと呼ばれる写真調整ソフトで改善してからネット掲載する例もあるという。

 

このような誇大・偽装広告にそそのかされ実際に治療に踏み切ったものの、得られた結果が広告に掲載されたものと大幅に差があってトラブルになったケースがある。さらに、広告掲載された格安料金に惹かれ、クリニックを訪れたものの、実際の治療費は麻酔代や薬代などが次々と加算(トッピング)され、広告掲載料金とは遙かに高額であったなどのトラブルが後を絶たない。

 

こういったトラブルやクレームは患者側から消費者生活センターに報告されるが、その件数が年々増加し、ここ最近厚生労働省が美容外科ホームページの広告指導に踏み切ったのである。厚生労働省の広告規制の詳細は、厚生労働省・ホームページに記載されているのでここでは割愛するが、上記に例の如く患者をその気にさせるキャッチコピー、誇大広告、修飾されたビフォー・アフター写真など、虚偽の広告ホームページ掲載を原則的に禁止するものである。

 

実は僕のクリニックも開業当初、ホームページの露出を意図的に上げるネット戦略を盛んに行い、その成果もあり開業当初から十分な集客が得られた結果、クリニック経営が早期に安定したので、正直ネット広告には大変感謝している。

 

僕が行ってきたネット広告戦略の経験を振り返えり、ネット広告を”焚き火”に例えて説明すれば、ネット広告は焚き火の炎(集客)のための着火剤であり、それは全く燃えていない状態(集客ゼロ)からメラメラと炎(集客)を上げるのに、とても効果的なSP(Sales Promotion、販売促進)である。

 

”焚き火”(集客)は一度火が付く(クリニックが認知される)と、あとは自然に燃え続ける(集客が継続される)ので、着火剤(SP広告)は必要ないはずで、あとはに”焚き火”(集客)に時折薪をくべ(PR広告す)ればよいだけだ。

 

勿論、”焚き火”(集客)の火の勢いを強くする(患者を増やす)にはさらに着火剤(SP広告)や薪(PR広告)をくべる必要があるが、そもそも医療は収益最優先に行うべきでなく、特に自由診療で行う美容外科医療では、もし広告せずに安定集客が得られたならば、それは大成功と謙虚に受け止め、収益アップよりも遥かに重要であるハイ・クオリティな医療提供に邁進すべきである。

 

近年の日本社会は少子高齢化に伴う急激な国民健康医療費の増加が財政を圧迫し続けているが、その対策として医療費の患者負担額アップのみならず、保険診療点数の軽減、すなわち医療提供側の収益減少を強いるようになった。その結果国民皆保険下で行われる一般医療に見切りをつけ、美容外科など自由診療に新たな活路を見出し、新規参入する医師達が年々増え続けているという。

 

勿論、そういった新規参入医師たちが、自ら開業したクリニックの認知度を短時間で高め、早期に軌道に乗せるにはネット広告が必要不可欠であろう。だが軌道に乗った後は、出来れば広告宣伝は控え目とし、誰しもが公平で適正な医療が受けられる健全な医療環境が形成できるよう努めるべきでる。

 

そしてこの医療に従事する1人1人の医師達が、そういった謙虚な態度で日々診療努力を継続することがこの業界全体の社会的評価を高め、それが巡り巡って患者も医師共々、皆が感謝と幸せに満ちあふれた健全医療を可能にするであろうと僕は強く信じている。

 

毎年新年度を迎えるにあたってその年なりの抱負を掲げてきたが、開業以来13年も経過すると新たな抱負を抱く必要をさほど感じなくなった。そして新たな抱負よりもむしろ、安全で確実な治療結果を一つ一つ積み上げるという地味な目標のほうがより大切だと思える。

今回は外科治療・エッセンス(本質)について述べるが、早速下眼瞼治療を例にしてその内容に具体的に触れてゆきた。当クリニックで行う経結膜的(目の裏側から行う)下眼瞼治療は長年の努力の末にその手技は完成しており、さらにこの治療法の結果分析・検証にてこの方法が揺るぎないとの確証に至った。

逆にもしこの治療法に欠陥があれば一定割合で不具合が生じ、その結果患者離れが進みクリニックが立ちゆかなくなっていたであろう。だが実際は過去13年間絶え間なくお客様に好評頂き、この事実も当治療法の価値の裏付けとなっている。

これをもう少し分かりやすく説明するのに飛行機を例に挙げると、航空機形状は過去30年以上ほとんど変化していないという。何故なら航空機形状は航空力学上すでに最良・最効率で改変の余地がないからである。確かに下写真の如く1970年代とその40年後の2010年代の航空機形状を比較しても、ほとんど形状変化がないことが分かる。

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僕の治療も航空機形状と同様に、すでに最良・最効率の手技が完成されていて改良の余地がなく、その証拠にどのような症例でも、ほぼ同様の手術時間内にほぼ同様の治療結果が得られている。

次に外科の歴史を振り返るとこの医療は16世紀初頭から記録が残るが、19世紀すなわち今から200年ほど前、麻酔法が確立されて急速に発展した比較的新しい医療領域といえる。この外科医療で一貫して行われていたのは、癌や化膿創など悪性・不要部位の剥離・切除である。

僕の治療の主体を成す顔面・抗老化外科で最も頻繁に行われ主要となる操作も剥離・切除で、それ以外の操作はあくまで補完的に過ぎない。そしてこの剥離・切除を行うのに必要な道具は鑷子(ピンセット)、剥離剪刀(ハサミ)、メス、そして止血・焼灼をレーザー・メスのみであり、その数もさほど多くはない。上述の下眼瞼治療に必要な主操作も剥離・切除で、それに必要な道具も上記のもので十分に間に合うであろう。

最近日本・韓国などの一部施設で下瞼治療に自家脂肪移植・注入(自己脂肪細胞の移植)を行っているようだが、いわゆる"目の下のクマ、たるみ"解消にはシンプルな下眼瞼形成術のみで十分で、煩雑な自家脂肪移植・注入操作は一切不要である。

また外科手術の結果は治療を受ける側の体質により全く同様操作を行っても誤差を生じることがあるので、そういった個体差による回避不能な誤差が出来るだけ少なくなるよう治療手技も出来るだけシンプルにすべきである。

今回は下瞼治療を例に挙げ外科治療・エッセンス(本質)について記載したが、実は当クリニックでは8年前からこの外科治療・エッセンスを顔面老化に伴う頬たるみ治療にも応用し、下瞼同様良好な成績が得られている。この事実は僕の主張する外科治療理論が正しいことの裏付けであり、近日中に頬たるみの治療結果について分析・検証を行う予定である。以上新年度の抱負・挨拶に代わり、これまでそして今後さらに展開するであろう外科治療・エッセンス(本質)について簡単に述べさせて頂いた。

今から12年前の2005年、僕がこのクリニックを開業した当時、美容外科医療でのホームページの集客力は絶大だった。ご存じの通り美容外科医療はそれを受ける方々にとって、出来れば誰にも知られず行いたいと願う守秘性の高い医療いため、一人でこっそり検索出来るインターネットはこの医療に興味のある方々にとってはまるで宝物のようだった。

 

当時成功する見込みも分からず無我夢中で開業にこぎ足した僕は、そのエネルギーをひたすらネットに注ぎ、現在のホームページ基盤も開業から数ヶ月であっという間に作り上げた。その成果があったり、当時は下眼瞼クマ・たるみ治療を専門的に打ち出しすクリニックが当院以外存在しなかったこともあり、大盛況を呈したことが昨日のことのように懐かしい。

 

その大盛況ぶりを周囲で見ていた他院がこぞって当院の戦略を模倣し、同様のネット広告を駆使した集客戦略をにわかに始め、驚いたことにはなんとその他院が”我こそがこの治療の先駆者”と謳った宣伝を始めたのを呆れながらに傍観し、これが”先駆者の苦労”なのだろうと悟った。

 

そうこうしているうちに時は瞬く間に経過し、今やさほどネット広告に力を注がずとも安定した集客が得られ安堵出来るようになった。そしてかつてのようにな頻繁なモデル写真の更新作業お控えるようになった。と言うのも眼瞼治療の治療方針・手技はすでに完結しているので、これ以上ホームページに同じ内容を繰り返し更新する必要性がなくなったからだ。

 

その代わりに最近力を注いでいるのは、僕が過去に行った治療結果の分析・検証作業であり、その結果をテキストブック(教科書)や論文にまとめるほうが、ホームページ・アップの繰り返すよりも、社会的に見ても遥かに価値があると思っている。そして僕のようにこの分野の中堅となった医師は、自院のネット宣伝だけではなくこの医療発展のための学術的貢献を行うべきだとも考えている。

 

ところが最近、僕のホームページを見た遠方在住の若いお客様か連絡がありスタッフが電話対応したところ、このお客様は”当院で下眼瞼治療を今も行っているのか?”との問い合わせだったという。彼女がそう思った理由を尋ねると、僕のホームページ症例写真の更新が最近あまりなされていないからだったという。

 

これまで継続していた症例写真の更新が途絶えると、ネットでしか当院のことを知り得ない方々はこのお客様と同様の判断をする可能性があるだろう。そこで僕はネット導入されるお客様のためには、頻度は多くなくとも今後も症例写真を定期更新する必要があることを悟った。

 

そんな最中、昨年頃から消費者庁・厚生省による美容医療への本格的な広告規制が入り始めた。その詳細は、ホームページで患者を治療に誘導するために謳った”日本一”とか”業界初”などの文言の規制、さらにいわゆる”ビフォー・アフター”と呼ばれる治療前後の比較写真に脚色を加えていないか等の検閲が入るようになったのだ。それは患者誘導のために治療後の写真に脚色を加えたりする浅はかな行為が横行し、それが原因で消費者庁にクレームが舞い込むケースが後を絶たなかったからだと言われている。

 

欧米先進国ではすでに随分前から美容医療で厳しい広告規制がかけられており、ようやく日本も欧米に追いついた感があり、この医療がまっとうな方向に向かうであろうこの政策を僕はむしろ歓迎している。何故ならこれを契機に、もはや広告宣伝が長けているだけで円滑な集客がなされる時は過ぎ去り、患者さんにとって有益な医療のみを提供出来る施設だけが生き残る本当の意味での美容医療の新たな幕が今まさに開かれたからである。

 

医学部卒後あっという間に25年近くが経過し、すでに僕は医師として中堅からベテランの域に達していた。それを痛感したのは数年前出身大学の同窓会に出席した際、ついこないだまでお互い若い医学生だった同級生たちがすでに役職を得た経験豊富な医師となり、今や後進指導に当たる立場である姿を垣間見た時だった。

 

東京・銀座で開業した僕は最初こそこの地を”アゥエー”と感じたが、10年以上も診療を続けているうちに今やこの地を”ホーム”と思えるようになった。銀座は美容診療を行う医師たちには魅力溢れる場所らしく、現在も新規開業が後を絶たない。僕はそういった新規開業を傍観しながら、医師のキャリア確立について考えてみた。

 

医師のキャリア選択第一ステップとして、医学部卒後に以下の2通りの選択肢がある。

1.医学系大学院へ進学し基礎研究を目指す。

2.卒後直ちに臨床医学研修を行い臨床医を目指す。

 

1を選択すると臨床医ではなく基礎医学研究者としてのキャリア選択なので、その延長線上には医学系大学の教授職や、医学系研究所等での研究者としての地位が待っている。2を選択すると臨床研修後、自ら選択した専門分野で一人前の診療が出来るようになると、将来は大学病院を含めた基幹病院での勤務医か、もしくは独立開業医の道を選択することになるだろう。

 

僕を例に挙げるとそのキャリア確立は非典型的で、まず最初に1を選択し、その後2にコース変更した。その理由は僕が医学部卒後、いわゆる”モラトリアム”と呼ばれる学生時代のような責任のない立場継続を求め、社会人となるのを先延ばししようとした。すなわち学生生活の延長をもくろんだため、さほど基礎研究に興味があった訳でもないのに敢えて大学院へ進学したのだ。

 

その4年間の大学院生活で基礎研究を行い、曲がりなりにも医学博士号を獲得し、大学院卒業の際担当教授に頂いたコメントは”あなはた基礎研究には向いていません。これから臨床医を目指すべきでしょう。。”だった。僕自身”まさにその通り”だと確信したので大学院卒後、出遅れたものの臨床医の道を目指すべく上記2へ進路変更したのだ。

 

その後僕は整形外科・形成外科研修を8年間行った後、開業し現在に至っている。今振り返ると僕の医師キャリア確立は基礎研究から始め、その後臨床医学研修まで幅広く網羅したので、結果的に自らの適性をしっかりと確認出来たと思っている。僕の選択した経過は紆余曲折がありキャリア確立まで長い時間が必要だったが、現在の外科開業医の立場を天職だと感じているので結果的にこのキャリア確立法は正解だったと思っている。

 

古くからのことわざで”急がば回れ”とあるが、一般職種と違い決まった定年退職時期もなく、能力さえあればいつまでも働ける医師であれば、キャリア確立までのスピード(短時間)を最優先にする必要はさほどない。医師キャリア確立のプロセス(経過)はオセロゲームを例に挙げるとわかりやすいが、それはこのゲームの勝敗のつきかたの特徴にある。

 

オセロゲームはゲーム途中の相手の持ち石色数が多く、その経過で形勢不利に見えてもゲーム後半でゲーム盤の四つ角を確保すれば相手の石色を一気に自分の色に変えることが出来る。すなわち”急がば回れ”のことわざにあるように、このゲームでは勝利へのポイントをしっかり抑えさえる動きさえすれば、ゲーム中ずっと形勢不利に見えてもゲーム最終局面で一気に勝利へ導けるのである。

 

開業医は開業当初負債を抱えており、その返済のため収益優先で診療を行う傾向があり、それはオセロゲームにたとえるとゲーム開始時に出来るだけ自分の石色を増やそうとする誤った努力に似ている。そのような開業当初から儲け主義的なやり方をしていると、賢明なお客様たちは医療の原点から外れたその誤った方針を見事に見極めるので次第に客離れが進み、安定経営(成功)が遠のいてゆく。

 

逆にオセロゲームの如くゲーム開始(開業)時なかな持ち石の色(売り上げ)が少なくても、ゲーム盤の4つ角を抑えるように医療の原点、すなわちお客様のメリット(恩恵)最優先に着実にやってゆけば、勝利(開業の成功=安定経営)は後から必ずついてくるはずである。そんなことをこの春銀座で僕と同業で続く開業ラッシュを見ながらふと思った。。

駆け足で診療に邁進したこの10年だったが、最近になって今後の美容外科のあるべき姿を明確化出来た感じ、この医療に対して自信が持てるようになった。この感覚は僕の行う顔面抗老化(アンチエイジング)外科手技が多くの症例を通して、より洗練され安定するにつれ生じ始めた。

 

ここで飛行機フレーム(機体)を例に挙げて、この事を説明しようと思う。飛行機フレーム(機体)は、現在のエアロダイナミクス(航空力学)理論に従う以上、これ以上進化しないと言われている。その証拠に機体は過去30年以上改善の余地はなく、同じ形状を維持している。したがって機体は、メインテナンスを行う限りほぼ永久的に使用可能で、実際現在世界を飛び回る旅客機の中にも30年前以上前に製造された機体が多数存在する。

 

僕が行う眼窩周囲・頬など顔面抗老化外科手技は上述の飛行機フレームの如く、完成域に達したと自負している。そこに至るには決して平坦な道のりとは言えず、僕の治療方針・手技に賛同し、治療を受けて頂いた多くのお客様があってこそなので、彼女・彼らに強い感謝を感じている。

 

僕は幸運にも、当時ほとんど行われていなかった結膜面からアプローチする下眼瞼治療を行った所、この治療を待っていたとばかりに多くのお客様が訪れ、比較的短期間に多くの症例を経験出来た。そして現在の僕には、いくばくかの時間的・精神的余裕が生じたので、下眼瞼治療についてその詳細を見直すことにした。すると下眼瞼領域のみでもこれまで知られていなかった新知見が沢山あることにも驚かされている。

 

そもそも外科医療の歴史はまだ浅く、19世紀に麻酔が開発されてからようやく外科手術が行えるようになったに過ぎない。その後外科医療が急速に発達したのは、第一次世界大戦で火薬兵器が使われ始め、爆発エネルギーによる外傷治療の必要性に迫られた20世紀初頭になってからである。すなわち外科医療が行われ始めてから現在まで100年余りだが、美容外科の歴史はさらに浅く、長く見ても80年弱なので、まだまだ未解明の事象があって当然なのである。

 

僕は大学院生時代、担当教授から「医師は疾患を治す臨床医であるとともに科学者でもあります。あなたがどの分野に進んでも、得られた知見を分析・検証する努力を決して怠ってはなりません」と言われた。あの時の教授の言葉を思いだし、技術的に安定した今こそ、漫然と同じ治療を繰り返すのみでなく、僕が培った治療手技を体型づけるべきとの意欲が湧き始めた。次第にそれは眼窩周囲に関する教科書を記載することが僕の医師としての、もしくは科学者としての使命を果たすことだとも閃いた。

 

そこで僕は過去に記載したホームページ、ブログ、論文を集積し、それらをまとめ直すことで一冊の教科書を記し、その題名を”アイデザイン(眼窩周囲の美容美容外科)”と銘打った。この教科書はすでに刊行され、すでにこの医療に従事する医師たちの目にも触れている頃だろう。僕はこの教科書の執筆作業を通じて、これまで自分が行った仕事を再確認したと同時に、頭の中により堅固な治療体型・論理が根付いたと実感した。

 

日々遭遇するお客様たちの症状は千差万別であり、全く同様の治療を行ってもその結果には必ず某かの個人差が生じる。逆に得られた治療結果が全く同様であっても、それを受け取る側の個人差によりその評価は異なることから分かるように、美容医療は大変デリケートな側面を持っている。美容医療では、常に良好な治療結果を得るのが至難の業だと言われのは上記理由に他ならない。すなわちこの医療を熟慮なく実践すれば、それあまるで真っ暗な夜道を松明もなしに歩くのと同様に、常におぼつかなさを感じざるを得ないはずである。

 

だが今回僕は、この教科書(”アイデザイン”)を執筆したおかげで、夜道を歩くのに松明を得たような自信を感じている。それは今後、様々な症例にお目にかかったとき、たとえそれが困難な症例だったとしても、安定した結果を出せるであろうという確固たる自信である。これが2年半の歳月をかけて、苦労しながら成し遂げたこの教科書の執筆作業から得た僕へのご褒美だと思っている。

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