2022年9月21日
コロナウイルスと美容外科−1
“中国人インバウンド・バブル“の崩壊
2020年の幕開もクリニックは好調だったが、その理由を過去に追うとここ数年増加の一途を辿っていた中国人患者さんたちがその要因で、まずはこの件について振り返ってみようと思う。
2012年に勃発した所謂”尖閣諸島問題“の際、中国で反日運動が起こったものの、それが次第に収束するのに反して、今度は日本に向かう中国人の“インバウンド需要”が増加し、その勢いは年々強くなった。
そして美容外科領域でもこの“中国人インバウンド・バブル“の追い風を受け、特に昨年度は空前のブームだったが、そのような中、昨年後半から香港民主化運動が過激化し、中国の政情不安に誰しもが一抹の不安を感じていた矢先、昨年末突如として中国・武漢で新型コロナウイルス性肺炎が発症した。
だが、この時点で多くの人々はこの新型コロナウイルス性肺炎を、過去にたびたび発症し半年以内に消沈する新型インフルエンザや悪くてもSARSのような肺炎で、しばらく大人しくしていればすぐに収束するだろうと楽観視していた。
その後直ぐに2020年を迎え、日本では相変わらず中国人インバウンド・バブルが継続し、当クリニックも今年1月は前年比を上回る勢いで中国人患者さんの治療中心に行っていたものの、武漢で勃発した新型コロナウイルス肺炎は我々の予想を遥かに超えた強い感染力で、まるで強い風に煽られた火事の如く中国全土に広がり始めた。
そして1月末から1週間ほど続く2020年の”春節(中国旧正月)”期間までに、このウイルス性肺炎により多くの人の命が中国で奪われ始め、中国政府は武漢封鎖を行わざるを得ないほど深刻な状況となり、2月中旬以降、中国政府が海外渡航禁止令を出した途端、それまで毎日怒濤の如くクリニックにやって来ていた中国人の客足は“ピタリ”と息を潜めてしまった。。
それ以降現在(4月上旬)まで、それまで3~4年継続した中国人インバウンド需要は完全消滅し、中国語通訳者や他院からの情報によると、どのクリニックも中国人患者の客足が完全に途絶え、美容医療界の“中国人インバウンド・バブル”の完全崩壊が確実となった。
戻ってきた日本人の患者さんたち
実は過去の”尖閣諸島問題“以前にも当クリニックには中国人患者が来ていたが、その問題が勃発した途端、突如客足が途絶えたことを鮮明に憶えており、それ以来今回の“中国人インバウンド・バブル“も必ず遅かれ早かれ終焉をするだろうと、僕はその時が来る覚悟と準備を常に意識するようにしていた。
そして万が一中国人の客足が途絶えたとしても、クリニックを維持するにはなんと言っても日本人のお客様たちを最優先・最重要にすべき事を肝に銘じながら診療をしていた矢先に、突如今回の大騒動が勃発したのだ。
そして僕の予想が見事に的中し、上述の如く中国人患者さんは2月中旬から突如消滅し、当初この先どうなるかと不安を感じたものの、中国人が来なくなった穴を埋めるように、以前からお越し頂いていた日本人患者さんが戻って来てくれたのだ。
そもそも僕のクリニックは2005年の開業から丸15年、日本人患者さんを主体に診療を続け、たまたまこの5年間中国人患者さんが殺到していただけで、今回の“中国人インバウンド・バブル”が訪れる以前に培った日本人診療の基礎体力があったのが功を奏して、現在も患者さんが途切れるること無しにやっていけているのだろう。
当てが外れた“中国人インバウンド・バブル“投資
さて世間では、この“中国人インバウンド・バブル“をまたとないビジネス・チャンスと見込んで、さらに今夏開催予定だった東京オリンピック需要でさらに拍車がかかり、ここ数年銀座ではホテル建設などの不動産投資が加速したり、美容医療分野でも中国人富裕層をターゲットとした幹細胞による再生医療等に積極的投資をしたクリニックが後を絶たなかった。
ところが今回前代未聞の不測の事態が勃発した結果、当然これらの先行投資は焦げ付いたはずで、投資者たちはきっと今頃頭を抱えているであろうし、実際、中国人バブルを見込んで急増した美容クリニックも中国人患者さんが突如途絶えた今、売上が立たず大変な思いをしているとの噂を耳にしている。。
そして誰しもが、この新型コロナウイルスは季節性インフルエンザウイルスの如く、春に気温上昇すれば自然と消え去るだろうと高を括っていたはずだが、どうやらこのウイルスはインフルエンザより遥かに厄介で、季節性に収束しないことが明らかとなった。
また、大半の人々がこのウイルスに免疫力を有しておらず、理論的には全人類の過半数がこのウイルスに感染して集団免疫力を獲得するまで収束しないはずなので、医学的に免疫力を獲得するためのワクチン開発、もしくはこのウイルスを撃退する治療薬の開発が心待ちされている。
だが、ワクチン・治療薬の開発は今後最低1年間は必要なので、その間我々はこのウイルスと対峙せねばならず、つまり長期戦を覚悟する必要があるので、もし中国人インバウンド目当ての不動産や医療ビジネスが持ち堪えられないのであれば、傷が深くなる前に方向転換すべきかもしれない。
コロナウイルス収束後の美容外科
ではこのような過酷な時代に我々美容外科は生き残れないのかといえば、僕は決してそうではない考えるが、何故なら人々はこういった時期こそ内省、すなわち自らを振り返る格好の機会となるからで、自分の価値をより高めるには美容外科が大変有用だからだ。
自分を高める“自己啓発”は内面・外面双方に働きかけて行うが、美容外科的手法による外面への働きかは大変価値があり、なぜなら外面的価値を高めるとその働くいで自然と内面的啓発も起こるのが常である。
その結果、我々の幸せ度•充実感がアップするが、僕はこういった不測の事態こそ人々は自分自身の価値に興味を示し、外面的価値を直接高めるツールとしての美容外科により強い関心を示すだろうし、実際そのような日本人患者さんたちがチラホラとクリニックにやって来ている。
そしてコロナ収束後はコロナ以前の世界とは大きく異なり、その新たな時代は無駄なものが排除され、必要なものだけが取捨選択されるようになるだろうと僕は予想していて、美容医療でも得られた結果が恒久的かつ、愛着を感じるものであれば、コロナ後の激動の時代にもその価値が高く評価されるであろう。
コロナウイルスが猛威を振るい続ける4月上旬の東京で、この問題が早く収束することを祈りながら治療後の、ふだんより長く取れる休憩時間に今思うことを筆の進むままに記載してみた。