2022年9月21日
米国・ハワイで行った美容外科医療の見学
ハワイ・オアフ島の形成外科クリニック
国・地域により治療のニーズは異なるので、普段自分のクリニックで行っていない治療に触れるため、僕は定期的に様々な場所に出かけるようにしていて、今年2月には前回ブログで記載した如く韓国・ソウルに鼻形成手術見学に出かけた。
鼻以外の顔面形成外科治療は当クリニックで頻繁に行っているものの、体幹部位治療は少ないので今回は米国・ハワイの知人形成外科医のクリニックを訪れた。というのも美容外科治療を見学するにあたって、いきなり見ず知らずのクリニックを訪れる訳にはゆかず、やはり知人クリニックを訪れるのが見学承諾を得やすいからだ。
ハワイ・オアフ島市街地で長年開業するベテラン形成外科医・パスクワレ医師のクリニックでは乳房形成、腹部下半身脂肪吸引、そして下腹腹部が垂れ下がり、脂肪吸引のみでは解決出来ない症状を解決する腹部除脂術を専門に行っており、こういった日本では稀な症例を見学しに行った。
今回3日間のオアフ島滞在で見学したのは腹部除脂術、男性に生じた女性化乳房修正術、そして鼻側に生じた皮膚がん(基底細胞癌)手術だったが、どれも日本で遭遇する機会が希な症例だったため、大変興味深く見学させてもらった。
腹部除脂術(Tummy Tuck)
最初の症例となった腹部除脂術は、下写真の如く余った皮膚と皮下脂肪が下腹部に覆い被さるほど弛んでいる場合で、皮下脂肪を脂肪吸引で吸引するだけでは治療効果が乏しいため、皮膚・皮下組織を一塊にして切除する方法で、欧米人の肥満症例ではこの治療が必要になる場合が少なくない。一方日本人の場合はたとえ肥満に陥っても皮膚・皮下組織に弾力性がありため、欧米人に認められるような皮膚が下腹部で覆い被さることは少なく、脂肪吸引のみで事足りる場合が殆どである。
この手術のポイントは弛んだ皮膚・皮下組織を腹部筋肉の上で腹部上部レベルまで剥離し、余った皮膚を切除するが、その際当然お臍の位置が上方移動するので、新たなお臍が収まる箇所を上腹部皮膚に形成するところである。決して難しい手術ではないが、剥離範囲が広範囲に及ぶため全身麻酔で行う必要があるのと、術後も感染症等を起こさないよう、適切なケアをすることも肝心である。
男性の女性化乳房修正術
次に行ったのが男性の女性化乳房修正術だが、下写真症例は30歳の米国人男性で、ご覧の通り体幹部は良く鍛えられているものの、乳房がやや女性のように膨らんでいる。その原因はこの男性がボディビルディング・トレーニングを行うにあたり、ステロイドホルモン用を多用し、そのホルモンの一部が女性ホルモンへと変化したため、女性化乳房が生じたというのがパスクワレ医師の見解だった。
治療は腋窩部から脂肪吸引を行った後乳輪部切開を行い、そこから脂肪吸引で除去しきれなかった余剰軟部組織を一塊にして切除したが、この男性の女性下乳房症例は意外にも多く、米国男性たちはこの症状を忌み嫌うため、男性の体幹部治療として症例数が最近特に増えているらしい。
日本にも肥満男性などに女性化乳房が発症しているケースは少なからずあるが、日本人男性の場合、体幹部への美意識が低かったり、そもそも自分の乳房が女性化していことに気づいていない、もしくは対処法があるとは知らず、そのまま放置している場合が少なくないようである。
だが女性化乳房は1度気にすると、何とかしたいと思うのが人情であったり、特に体を鍛えて男性らしくありたいと願う男性には耐えがたい症状なので、外科的手段を用いてでも解決したいと考える男性たちが近い将来日本でも増える可能性が高い。
左鼻横に生じた皮膚がん(基底細胞癌)
最後に観察したのが49歳白人男性の左鼻横に生じた皮膚がん(基底細胞癌)だったが、その診察に僕も参加して驚いたのが皮膚がん所見がなかったこと、すなわち皮膚がんを示す皮膚病変が全く存在しなかったことだった。
この男性の鼻横の皮膚の色調や性状に全く変化なく、どのようにその癌を発見したのかが今ひとつ釈然としなかったが、最終診断はバイオプシーと呼ばれる同部位皮膚細胞採取とその細胞の顕微鏡診断による悪性度の有無で、その結果この男性のケースは皮膚がんと証明されたのだ。
手術は鼻翼横にある皮膚を直径5ミリ程度、すなわち直径30ミリ程度の皮膚がんより直径20ミリほど大幅な余裕をもって円形切除した。このような拡張皮膚切除を行うのは、皮膚がんが周囲組織への浸潤・転移するのを確実に回避するためであった。
そして左鼻翼横で大きく欠損した皮膚領域は、下図の私がこの手術見学中にメモしたスケッチの如く、ほうれい線下にV字切開を加え、腫瘍切除で欠損した部位にその皮弁を移動させた後、Y字型に縫い合わせる形成外科の代表的処置を行った。
このV-Y advancementは形成外科領域で、皮膚欠損部を被覆する有茎皮弁移植法としては最も有名な方法だが、悪性皮膚腫瘍の少ない日本では遭遇する機会が少なく、こういった症例を見学出来るのがわざわざ米国まで足を運んだ理由である。
本見学のまとめ
今回の米国手術見学では
1腹部除脂術
2男性に生じた女性化乳房改善術
3鼻翼横に生じた基底細胞癌根治術
の3件の治療に立ち会った。
日本での日常診療では同様の治療に対処することが多く、ともすると形成外科・開業医としての仕事がマンネリ化しやすいと言われるが、今回の見学で普段遭遇することのない症例を経験し、大変良い刺激となったが、この貴重な経験を今後の診療に役立ててゆこうと思う。
ハワイ・オアフ島の形成外科クリニック
国・地域により治療のニーズは異なるので、普段自分のクリニックで行っていない治療に触れるため、僕は定期的に様々な場所に出かけるようにしていて、今年2月には前回ブログで記載した如く韓国・ソウルに鼻形成手術見学に出かけた。
鼻以外の顔面形成外科治療は当クリニックで頻繁に行っているものの、体幹部位治療は少ないので今回は米国・ハワイの知人形成外科医のクリニックを訪れた。というのも美容外科治療を見学するにあたって、いきなり見ず知らずのクリニックを訪れる訳にはゆかず、やはり知人クリニックを訪れるのが見学承諾を得やすいからだ。
ハワイ・オアフ島市街地で長年開業するベテラン形成外科医・パスクワレ医師のクリニックでは乳房形成、腹部下半身脂肪吸引、そして下腹腹部が垂れ下がり、脂肪吸引のみでは解決出来ない症状を解決する腹部除脂術を専門に行っており、こういった日本では稀な症例を見学しに行った。
今回3日間のオアフ島滞在で見学したのは腹部除脂術、男性に生じた女性化乳房修正術、そして鼻側に生じた皮膚がん(基底細胞癌)手術だったが、どれも日本で遭遇する機会が希な症例だったため、大変興味深く見学させてもらった。
腹部除脂術(Tummy Tuck)
最初の症例となった腹部除脂術は、下写真の如く余った皮膚と皮下脂肪が下腹部に覆い被さるほど弛んでいる場合で、皮下脂肪を脂肪吸引で吸引するだけでは治療効果が乏しいため、皮膚・皮下組織を一塊にして切除する方法で、欧米人の肥満症例ではこの治療が必要になる場合が少なくない。一方日本人の場合はたとえ肥満に陥っても皮膚・皮下組織に弾力性がありため、欧米人に認められるような皮膚が下腹部で覆い被さることは少なく、脂肪吸引のみで事足りる場合が殆どである。
この手術のポイントは弛んだ皮膚・皮下組織を腹部筋肉の上で腹部上部レベルまで剥離し、余った皮膚を切除するが、その際当然お臍の位置が上方移動するので、新たなお臍が収まる箇所を上腹部皮膚に形成するところである。決して難しい手術ではないが、剥離範囲が広範囲に及ぶため全身麻酔で行う必要があるのと、術後も感染症等を起こさないよう、適切なケアをすることも肝心である。
男性の女性化乳房修正術
次に行ったのが男性の女性化乳房修正術だが、下写真症例は30歳の米国人男性で、ご覧の通り体幹部は良く鍛えられているものの、乳房がやや女性のように膨らんでいる。その原因はこの男性がボディビルディング・トレーニングを行うにあたり、ステロイドホルモン用を多用し、そのホルモンの一部が女性ホルモンへと変化したため、女性化乳房が生じたというのがパスクワレ医師の見解だった。
治療は腋窩部から脂肪吸引を行った後乳輪部切開を行い、そこから脂肪吸引で除去しきれなかった余剰軟部組織を一塊にして切除したが、この男性の女性下乳房症例は意外にも多く、米国男性たちはこの症状を忌み嫌うため、男性の体幹部治療として症例数が最近特に増えているらしい。
日本にも肥満男性などに女性化乳房が発症しているケースは少なからずあるが、日本人男性の場合、体幹部への美意識が低かったり、そもそも自分の乳房が女性化していことに気づいていない、もしくは対処法があるとは知らず、そのまま放置している場合が少なくないようである。
だが女性化乳房は1度気にすると、何とかしたいと思うのが人情であったり、特に体を鍛えて男性らしくありたいと願う男性には耐えがたい症状なので、外科的手段を用いてでも解決したいと考える男性たちが近い将来日本でも増える可能性が高い。
左鼻横に生じた皮膚がん(基底細胞癌)
最後に観察したのが49歳白人男性の左鼻横に生じた皮膚がん(基底細胞癌)だったが、その診察に僕も参加して驚いたのが皮膚がん所見がなかったこと、すなわち皮膚がんを示す皮膚病変が全く存在しなかったことだった。
この男性の鼻横の皮膚の色調や性状に全く変化なく、どのようにその癌を発見したのかが今ひとつ釈然としなかったが、最終診断はバイオプシーと呼ばれる同部位皮膚細胞採取とその細胞の顕微鏡診断による悪性度の有無で、その結果この男性のケースは皮膚がんと証明されたのだ。
手術は鼻翼横にある皮膚を直径5ミリ程度、すなわち直径30ミリ程度の皮膚がんより直径20ミリほど大幅な余裕をもって円形切除した。このような拡張皮膚切除を行うのは、皮膚がんが周囲組織への浸潤・転移するのを確実に回避するためであった。
そして左鼻翼横で大きく欠損した皮膚領域は、下図の私がこの手術見学中にメモしたスケッチの如く、ほうれい線下にV字切開を加え、腫瘍切除で欠損した部位にその皮弁を移動させた後、Y字型に縫い合わせる形成外科の代表的処置を行った。
このV-Y advancementは形成外科領域で、皮膚欠損部を被覆する有茎皮弁移植法としては最も有名な方法だが、悪性皮膚腫瘍の少ない日本では遭遇する機会が少なく、こういった症例を見学出来るのがわざわざ米国まで足を運んだ理由である。
本見学のまとめ
今回の米国手術見学では
1腹部除脂術
2男性に生じた女性化乳房改善術
3鼻翼横に生じた基底細胞癌根治術
の3件の治療に立ち会った。
日本での日常診療では同様の治療に対処することが多く、ともすると形成外科・開業医としての仕事がマンネリ化しやすいと言われるが、今回の見学で普段遭遇することのない症例を経験し、大変良い刺激となったが、この貴重な経験を今後の診療に役立ててゆこうと思う。