2022年9月21日
開業医の責任
クリニックで日々診療していると、クリニックを訪れるお客様をはじめ、クリニック従業員、医療材料・器機、ネット関連、クリニック清掃、書籍出版、また最近では中国人顧客を紹介してくれる紹介業・通訳者など多くの人々と関わります。それ以外にも社会保険労務士、顧問弁護士、顧問税理士たちとも密に連絡を取り合っている。
今から13年前、僕は自分の意志でこのクリニックを立ち上たが、その際も建築業者、医療業者さん達のお陰でなんとか開業に漕ぎ着けた。当時を振り返ってもあの時彼らの助けがなければ今の僕はなかったと思うと、彼らの好意に対して言葉に表せないほど感謝している。
先日、大学新卒でクリニックに入社した1人の従業員から「先生はあと何年くらい診療を続けるつもりですか?」と尋ねられたので、僕は即座に「僕はこの仕事が好きだしこれしか取り柄がないので出来るだけ長く、そうだね~、あと20年くらいはやるんじゃないかなぁ~」答えた。
するとこの従業員、続けて「そうですか。私もこのクリニックに長く勤められるのでそれを聞いて安心しました」と笑顔で返答した。僕はその時、もはやクリニック営業は自己都合ではなく、患者・従業員を筆頭に上述したクリニックに関わる多くの人々への責任が生じている事実に”はっ”と気づかされた。
開業して間もない時期であれば、自己都合でクリニックを閉院してもさほど責任問題は生じないが、僕のクリニックには今や1万人近くの顧客がいて、その方々たちから美容医療相談があれば、いつ何時も真っ先に応じる義務が生じているだ。そういった多くの人たちからの期待の中、もし自己都合でクリニックを閉じるとすれば、それはあまりにも身勝手、もしくは無責任ということになる。
長くビジネスを継続するにつれ、上述の如く重大な責任が発生するが、一方この責任はその見返りとして社会的信用力となって返ってくる。すなわち、その社会的信用力によりクリニックはより安定経営に繋がるので、むしろこの重大責任は歓迎すべきものであり、またビジネス成功者には必ずつきまとうものと考えるべきであろう。
特にクリニック診療は生きた人間を対象とするだけに、素晴らしい方にお会いして感動に胸震える経験をすることもあれば、逆に少々気むずかしい方を相手に不合理な思いをさせられ、それなりに辛い思いをすることもある。だがそういった苦い経験もポジティブに考えればそれは人生の糧になるわけだからそれも良しとし、また明日から頑張ろうと気分転換して翌日の診療を迎えれば良い。
銀座では最近、30代中半から後半の新進気鋭の美容外科たちが、かつての僕がそうだったが、成功を夢見て開業ラッシュが続いているとのこと。だが少子高齢化や美容外科を目指す医師の急増に伴い、銀座では既に美容医療が供給過多で、新規開業を目指している医師には前途多難な状況であるのに間違いない。
特に来年6月以降、厚生労働省が原則的にいわゆる”ビフォー・アフター”と呼ばれる症例写真のホームページ掲載の禁止を発表したため、開業成功は今後さらに厳しくなることが予想される。”ビフォー・アフター”写真の掲載禁止理由は、これらの写真を故意に加工・修飾して結果を良く見せて集客を図ろうとするクリニックが後を絶たず、それが原因で消費者庁に患者さん側からクレームが殺到したのが原因らしい。
このように美容医療提供側のビジネス運営に過酷な条件が突きつけられる中、この業界に新規参入する医師達は余程の信念と決意を持ち日々努力しなければ、明るい未来はやってこないであろう。だがこのような厳しい環境の中生き残った者こそ本物であり、そういった本物たちがこの医療を受けて良かったと思う顧客(ファン)を増やし、その結果美容医療の社会的認知・信用力が向上してゆく姿を、すでにベテランの域に達した僕は願って止まないのである。