2022年9月21日
横浜の家具屋さん
開業7年目の今年、僕はこれまで生活した賃貸マンションを離れた。開業以来、自分の生活は後回しにして、便利な家具付き賃貸マンションに住んでいたが、クリニックが軌道に乗ったこの機会に引っ越しを決意したのだ。
今から10年以上前、初めて東京に来たとき、就職先の十仁病院は新橋にあった。通勤にあまり負担にならない距離で物件探しを始めた。なんとか物件は決まったものの、すぐに家具を調達しなければならなかった。その頃僕は道東の病院で、病院当直室、病院宿舎に泊まり込みに近い生活をしていたので、家具は勿論、外出する衣服すら持ち合わせていなかった。
東京での新しい勤務先の十仁病院院長から”家具を買うなら大塚家具店”と言われて、お台場の大塚家具店で必要な家具を調達した。家具は長期間使用するため、予想以上に値が張ることを初めて知った。ソファ、ダイニングテーブル、本箱、ベッド、そしてカーペットなど、数時間をかけて選択した。
だが当時の僕は家具のサイズ、家具同士のマッチングなどはまったく気にかけず、個々のアイテムの良し悪しのみでそれぞれを選択した。その結果どうなったかは火を見るよりも明らかで、マンションの中はミスマッチの家具のために落ち着かない空間に陥ってしまった。
モダンな米国調のソファに、シックなヨーロッパ調ダイニングテーブルや本箱が一緒にあれば、統一感がなくなるは当然だった。さらに部屋と家具サイズが合わなかった大問題で、生活空間も不便になってしまった。数年このような環境で暮らすうちに、居心地の悪さに我慢できず、これらの家具を全て撤去し、家具付きのサービスマンションに暮らすようになった。
過去の苦い経験から、こういった事はプロに任せるのが一番なので、クリニック内装をお願いしたデザイナーに横浜の家具屋さんを紹介してもらった。家具と言えばカッシーナなど、イタリア製高級家具をイメージするが、本当に大切なのは個々のアイテムではなく、全体の統一感なのだ。だからこういったブランド家具ではなく、僕の地元北海道、旭川の家具で揃えることにした。
旭川は北海道に育つ楢の木などの木工品の街として有名だ。だがブランドイメージがないため、全国的にはあまり有名ではない。そのショールームが横浜にあるため、先日見学したところ、この家具であれば心地よく生活できると直感した。
インテリアに関して僕は寸法の取り方やその配置もよく分からない。だがこの家具屋の社長さんの説明を聞いていると、彼がこの道のプロであるとすぐにわかった。彼は素人の僕に選択をさせるのではなく、彼が良いと判断したものを勧めた。僕はそれらの家具やデザインが好きかどうか判断するだけでよかったので、楽に家具選択を終了した。その過程は僕の診察スタイルと同様だった。その道のプロは素人である顧客に対して、プロとしての提案をし、それの良し悪しを顧客に判断してもらうからだ。
僕はこの社長さんのセンスが大変洗練されていると気がついたので、彼にインテリアコーディネートを任せた。受注生産となる家具は発注から納品まで1ヶ月程度かかるが、長く付き合う家具であれば、それくらいの待ち時間は当然だろう。またこれらの家具は手作りなので、職人さんお家具への思い入れが込められる。それは木のぬくもりと相成って暖かい波動を放ち続けるだろう。今度こそ落ち着いた空間を手に入れられると確信している。