2022年9月20日
”せっかち”な外科医?
知人の割烹料理店 先日友人の紹介で、開店したばかりの割烹料理店を訪れた。金をあしらった装飾品が多いこのお店、店長が金をトレードマークにしているらしい。さすが割烹料理らしく、美味しいばかりではなく、見た目も美しい料理が次々に出てきた。コースの途中で、なぜか新たに割り箸が出された。僕は何も考えずにその割り箸をすぐに真っ二つに割った。”あれっ?”と思った瞬間、お箸の間から金粉が舞い散った。それを見たお店の女将さんは僕に向かって「私の説明を聞く前にお箸を割ってしまったんですね。。」と言った。僕以外の残りの友人たちは誰も箸を割っていなかった。僕は”またやってしまった。”と思った。僕は周りの知人たちから”せっかち”と言われることがある。外科医の仕事上、僕は出来るだけ効率よく手術を終えようと常に心がけている。何故なら、手術はシンプルかつ短時間で終了する方が、腫れなどが少なく、良い結果がでやすいからだ。 米国の外科医 今から12年ほど前、僕は米国フィラデルフィア、トーマス・ジェファーソン大学で整形外科研修のための短期留学をした。この経験を通して、僕は米国外科医たちに大きな影響を受けることになった。その中の一つのエピソードを”せっかち”というキーワードから、ふと想い出した。ある日、僕はこの施設で著名な外科医の手術に立ち会った。この医師は60代後半の長老医師で、その名前が病院の施設名に使われるほどの功績を残していた。普段は温厚そうなこの医師、手術が始まると、まるでスイッチが突然入ったの如く、機敏に動き出した。手術は助手が医師の要求する道具を次々に出しながら進んでゆく。この助手は、手術前やや緊張の面持ちだったが、どうやら、初めてこの長老医師の助手についたらしい。手術中盤、この医師が要求した道具を助手が出せずにもたついた。この医師は「早く!!」と叫ぶ。助手は慌てたが、どうしても道具を見つけることが出来なかった。この医師はその様子を見るやいなや、すかさず「交代!!」と叫び、新米助手をベテランに代えた。この新米助手は悔しかったのか、手術手袋をはぎ取って、床に投げつけた。だが、手術はテンポ良く進むのが最優先、もたもたしている助手の面倒を見ている暇はない。この医師の手術中の態度は”せっかち”そのものであった。 手術とリズム 外科医は過去に培った経験から得た自信を頼りに、迅速かつ積極的に手術を進める必要がある。次の操作が少しでも遅れたら、手術のリズムが崩れることがある。そのため、手術中、ある程度”せっかち”になるのはやむを得ない。これが僕が先輩外科医たちから学んだ真実であった。僕自身、いつの間にか、この”せっかち”を身につけてしまった。そんな僕のリズムで助手をするクリニックの看護師さんたちも大変だが、僕もこのリズムだけはどうしても譲れない。先ほど述べた米国の長老医師と同様、良い結果を出すことが最優先されるからだ。 そんなことを考えながら、僕は割り箸の間から机の上に落ちた金粉を拾おうとした。しかし、金粉はあまりに薄く、慌てて拾おうとする動作とともにあたりに舞い散ってしまった。 それを見ていた女将さんは僕に「お客さん、あーもったいない。金粉は体にとても良いんですから。」と言った。僕の場合、このように普段の生活でも”せっかち”な面がついつい出てしまう。「すみません、僕は”せっかち”なので。」と苦笑いをしながら女将さんに答えた。