2022年9月19日
アンチエジング診療の外ー3(今年を終えるにあたって。)
不安だった開業直後 今年初頭に開業して以来、あっという間に時間が過ぎ去ろうとしている。大きなトラブルもなく、クリニック経営も徐々にではあるが、よい方向に向かってきたので、「とりあえず一安心、なんとか新たな年を迎えることができるな。」というのが正直な感想だ。開業してから軌道に乗せるまではその準備で無我夢中だった。器材調達、人事、広告宣伝、経理等、やらなければいけないことが次から次へと迫ってくる。経営的にうまくいくかどうかも常に考えていなければならず、無我夢中だった。最初の月は僕のなじみの固定客が友情支援的に支えてくれた。しかし、翌月には誰が来てくれるのかがわからず、不安だった。なんとかその月も固定客でつながったものの、新規顧客の開発には非常に骨が折れた。開業して数ヶ月しても新規顧客が一人も来ないことがわかったときには、さすがに不安でいたたまれない気持ちに陥った。新規顧客を開発するには宣伝広告戦略を行うしかなかった。宣伝広告戦略では他クリニックとの差別化を打ち出すために、僕の美容医療にかける主張を全面的に打ち出した。しばらく反応はなかったものの、この僕のメッセージに共感して新規顧客が僕のクリニックに来てくれたときは涙が出るほど嬉しかった。開業までの苦労があっただけにその喜びはひとしおだった。 それ以後、少しずつ新規客が増え続けているので、このビジネスを継続してゆく可能性を見出している。ここで僕が忘れていけないのは、僕のクリニックに来てくれているお客さんはすべて僕のアンチエイジング医療に共感してくれているVIP(最重要顧客)ということだ。これからもむやみやたらに売り上げを伸ばすのではなく、一人一人を大切にしながらこのアンチエイジング医療を定着させることを忘れないようにしたい。 今年の傾向 美容医療といえば女性のためのもという感じがある。僕のクリニックではいまや決してそのようなイメージはない。僕のクリニックのマーケティング(顧客開発)として真っ先にくるのがアンチエイジング(できるだけ若く健康に長生きすることを追及する医療)であるため、性別は問わない。当然男性顧客も大歓迎なのだが、従来の美容クリニックではその敷居が高いせいか、男性から敬遠されいていた。しかし年末にかけて僕のクリニックでは男性顧客が少しづつ増えてきたのである。 彼らは今まで美容医療に興味があったものの、一度もその足を美容クリニックに向けたことのない新規顧客たちだった。彼らは”男性も見た目が重要である”というこれまでタブー視されてきた事実にいち早く気がついて、そのために一歩踏み出すことのできるスマートな男性たちだ。女性にその本音を尋ねると、女性の男性のルックスに対する評価は男性の女性のルックスに対する評価以上であるとみな口を揃えて言う。不幸にも世の中の男性はその事実を知らないでいる。 男性の中でも美意識に関して最先端を行く、僕の香港の友人ウイリアムは先日福岡で治療を行った際にこう言った。「今や男性でもルックスを重要視しないのはお金がないか、それとも愚鈍であるかのどっちかだ。」と。随分過激な意見だが、彼にしてみると美容医療を受けない人間のほうが変わっていると言うのだ。日本では男性の場合、美容医療に興味を持つほうが変わっていると思われ、足を運ぶのが後ろめたい感があるのだが、僕のクリニックでもそういった過去の常識は通用しなくなってきた。セルフ・コンシャスネス(自己意識)の高い男性たちがやってきてどんどん若返えっていくようになったのだ。女性ばかりでなく、男性も若返ってゆくことは少子高齢化の日本経済にとって最重要事項だ。 クリニック経営で大切なこと ある開業医の先輩に忠告されたことがある。「クリニック経営で大切にしなければいけないのは顧客と従業員の2点だよ」と。医者になってから現在に至る自分自身の態度を振り返ってみると、大学病院のような官公的な施設で勤務していたころは僕は随分と偉そうだった。患者さんに対して「僕は医者だ。診て欲しかった僕の言うことを聞きなさい。」という態度だった。それは黙っていても次から次へとやってくる患者への医師の圧倒的優位な立場にあぐらをかいていたからかもしれない。それから、開業ベースの医療現場に従事するようになって、医師も患者から指名されるようでなければビジネスとしては成立しないことに気がつかされた。 その後、東京で美容医療にかかわるようになって、医師が患者に選ばれる立場に逆転する厳しい現実に直面した。「僕が患者を診てやる。」という横柄な態度では誰も僕の治療に興味を示してくれず、当初は一人も顧客を持つことができなかった。先輩医師は僕にこう言った。「美容医療を目指すんだったら、考え方を根本から変えないとやっていけないよ。野球のイチロー選手を想像してごらん。彼には直球はまずこないんだから。癖球をどうやってヒットにするかが勝負なんだよ。」と。僕はピンときて自分自身につぶやいた。「そうか。僕はこれまで直球ばかり打つことを考えていたのか!」と。それからは患者というより顧客と考えて、いかに彼女彼らにリクエストされる実力を獲得する習慣を身に着けた。しばらくするうちに美容医療のために自費診療で高額な負担をする顧客たちのニーズに答えることができるようになった。このときかもしれない。僕が「もしかすると、開業できるかもしれない。」と思ったのは。 家族と思える従業員スタッフ 顧客に対する姿勢と同様に大切にしなければならないのが従業員の扱いであることは開業してから知った。僕一人では診療したくても何もすることができない。スタッフの存在はかけがえのないものだ。僕は彼女たちを自分の家族だと思って接しなければ、ずっと続くこのビジネスを成立させることができないとすぐに気づいた。僕の考えている方針を彼女たちに共感してもらう必要がある。僕は常に彼女たちに言い続けた。「美容医療は医療行為を用いたれっきとしたサービスビジネスなんだ。お腹が痛くてとにかく医者に助けてもらいたくてどこでもよいからやってくるわけじゃないんだ。顧客たちが僕たちを選ぶ立場にあるんだと。」彼女たちはすぐに僕の意図を理解してくれた。僕はさらに続けた。「レストランを想像してごらん。接客態度は僕たちも同様に最上級のものでなければならない。料理の味は僕たちの医療内容、レストランの雰囲気は内装を含めて居心地の良い物じゃなくちゃいけないね。そうすれば顧客は少しずつ増えるし、僕たちの懐も少しずつ暖かくなるよ。」と。この時点で一攫千金を狙うスタッフは消えていった。 最後に 以上、今年度を終えるにあたって思いつくままに感じることをつづってみた。幸運なことに日本経済も今年度後半から順調な回復を見せはじめた。とはいっても世の中の二極化(勝ち組、負け組)の傾向は今後とも進むに違いない。努力するもの報われ、そうでないものは厳しい現実に直面せざるを得なくなる。今年僕が行った顧客の満足度を最重要視するコンセプトは間違いでないことが証明された。来年度は僕自身はアンチエイジング医療のスペシャリストとして、さらに一歩進んだ能力を獲得することに全力を尽くすつもりでいる。現在僕のクリニックで働くスタッフたちは僕のこの理念を理解してくれている有能な女性たちだ。このスタッフたちがいる限り、僕はこのビジネスが成功に向かうものであることを確信している。