2022年9月19日
アンチエイジング診療の外ー11(ドイツ美容外科国際学会-1)
ドイツへ行くきっかけ 僕はドイツ美容外科学会が初めて開催した第一回ドイツ国際美容外科学会に2004年7月6日~7月13日の一週間、参加した。この学会に参加する動機となったのは、ドイツ美容外科学会長のマング教授によって執筆された美容外科マニュアルと出会ったことによる。美容外科に関するテキストブックは今までにもたくさん出されているが、その全てが必ずしも的を得ているものとは限らない。常々、シンプルで美容外科では重要とされるヴィジュアル的な物を探していたのだが、アマゾンドットコムで最近最も売れている美容外科テキストブックがこの本だったのである。 この教科書はヴィジュアル的に優れたもので、手術に関する手技中心のシンプルなものであり、手術前には必ず目を通すようにしている。さらに、実際の手術風景のDVDもついているため、手術前に見ると、大変良いイメージトレーニングになる。この本の巻頭にマング教授のコメントがあり、そこには世界各国から、この教授の運営するクリニックに訪れる医師が多数いると記載されていた。僕にも見学するチャンスがあると判断して、早速マング教授にメールを送ったところ、見学を快く承諾していただいた。 ドイツ美容外科学会とは? ところで、ドイツ美容外科学会とはどのようなものなのだろうか?元来、耳鼻科医であったマング教授が中心となって12年前にドイツ形成外科学会、ドイツ口腔外科学会、ドイツ耳鼻咽喉科学会が共同で立ち上げたものである。彼らはあくまでも手術治療を行う、美容外科にこだわっており、メスを使わないヒアルロン酸、ボトックス注射、レーザー治療などの治療とは区別をしている。 これらのメスを使わない(bloodless)な領域の医師たちがが、その境界を超えてメスを使う領域に経験もなく入ってくることに警鐘を鳴らしている。この学会の目的も、そのような未経験な医師達に対する教育や、しっかりとしたコンセンサス、基準を作ろうとしている。手術を行なうのであれば、これらの教育を受けた上で行なう必要があることを主張している。我々の国においても同様なことが起こりつつあり、このようなガイドラインをもうけることは非常に重要である。早急に見習う必要があると思われ、本学会に参加することとした。 南ドイツ・ボーデン湖畔 マング教授はドイツの南に位置する、ボーデン湖畔に近いリンダウという街にBodensee クリニックを築き、ドイツ国内外から患者を集めている。リンダウは小さな街で人口は数千人だ。この街はドイツ、スイス、オーストリアの国境近くに位置していたため、僕はスイス航空にてジュネーブに飛んだ。そこからコンパクトなプジョー409を借りて、東に位置するドイツに向かって進んだ。 高速道路にはドイツ車やフランス車が目立ち、日本車はたまにホンダ、トヨタのコンパクトカーを見かける程度だ。ヨーロッパでも日本車の独壇場にさせない、彼らの意図がうかがえる。実際、近年のヨーロッパ車の性能は日本車に劣らない。 スイスの丘陵地帯はとてものどかで、草原には屋根のとがったきれいな家とその前には牛たちが横たわっている。夏のスイスの空は澄み切っており、アルプスの少女ハイジのイメージそのものだ。自家風力発電の羽塔がいたるところにある。風景がこんなにきれいに見えるのは、ヨーロッパが風力発電を積極的に取り入れて、環境のクリーン化に力を注いでいるせいであろう。 一時間も走ると、プジョーの操作も次第に慣れ、時速100kmの制限のところを130kmで飛ばし、多方の車を抜かし始めた。ドイツ国境もノーチェックで通過した。ユーロのおかげでヨーロッパの国がほぼ一つにまとまっているからであろうか。国境の検問につきものの、ピリピリした緊張感はなかった。 ボーデン湖畔は日曜であったためか、レジャー帰りの思わぬ渋滞に巻き込まれ、湖畔までの100kmの道のりを1時間弱で来られたものの、結果リンダウ到着には2時間かかり、時計は午後8時をまわっていた。しかし、サマータイムのせいか、この時間でも湖畔には数知れぬヨットが浮かび、水辺では日光浴、水浴びをしている姿が多かった。 Bodensee クリニックにて クリニック内はヨーロッパ家具が置かれ、質素であるけれども、小奇麗である。言葉はドイツ語で話されているので、全く分からず苦労した。もう少しインターナショナルな共通語として英語が浸透していると思ったが、ドイツに関してはあまりそうではない。かつての強国として自分たちの文化に誇りを持っているせいか、英語がわかっていても、敢えてドイツ語を使う徹底ぶりが印象的だ。 テレビもCNNを除いて全てドイツ語。英語で話しかけると、ようやく英語で必要最低限の事を答えてくれる。ラジオではシューマッハがF1で優勝したことを何度も繰り返し伝えていることが、ようやくドイツ語で理解出来た。 初日は豊胸手術を見学することとなった。各国から多くの医師たちが見学に来ているため、実際に手術室で見学することは出来ない。ライブサージャリーと言って、手術室で実際に行っている状況を生で、隣の部屋にいる僕たち医師にビデオで見せるのだ。実際、この方がズームで見られるので、手術室で覗き込むより、よく観察することが出来る。次の日はわし鼻の手術、その次の日は脂肪吸引とライブサージェリーが続いた。日本でも頻繁に行われている治療ではあるが、その治療過程と結果が微妙に違う。その違いの中に、より良い治療を行うためのヒントが隠されている。相変わらず、説明の言語は全てドイツ語、何を言っているのか全く分からず、手術シーンにかぶりつくしかなかった。これでも、大学時代の第二語学はドイツ語を選択した。いつも成績はA,B,Cの中でC、とんでもなく不勉強で、そのつけが今になって現れたのだ。日本語、英語以外の言葉の壁がこれほどまでに厚いとは思いもよらなかった。