2022年9月19日
1.4 医療としての「美」、美意識としての「美」ー5
●人はなぜ「美」を求めてやまない生きものなのか?
人はなぜ,美しくなりたいのだろうか? その理由はプライド,虚栄,賞賛への欲望,他人より抜きん出たいなどの理由からだと言われている.
「美」への崇拝は東西の共通文化であり,しかも人間のみが自然の運命を甘受することを拒む,美への不満を受け入れない生き物でもある.
そしてより美しくなりたいと常に望んでいる.美への渇きは,その人をより美し くありたいと駆り立て,その実現は生活の質を向上させる.全ての地域での高度文 明化は人間の寿命を大幅に延ばしているが,それだけで満足せずに,「もっと美しくありたい……」という人々の願望,美への渇きが満たされることはない. このわれわれの状況を見たある人は次のように語った.
「もし医学が時間を人生に与えてくれるのであれば,美容外科医療は人生を時間に与えるだろう」と.
美とファッションは,われわれ自身を表現したり,新しいアクセントや流行を創出したいという内面欲求の外的兆候である.それゆえ,われわれはファッションを人生における芸術的創造性の試みと定義づけている.
「皆が周知の如く,美は永遠ではない.だが同様に美に年齢はない.ある人は 20 歳のときにとても美しい.だが,40 歳を越えて美しさにみがきがかかる女性も いる.われわれは何歳になっても魅力的であり続けることは不可能なことではな い.」とココシャネルは言っている.
また,マダム・デポマドールは次のように語っている.「女性に一番必要なのは喜びだが,時間の経過とともにそれは次第に困難になる」 と.
美の専門家たちのこうした発言は,私にある年老いた女性がフェイスリフト手術 をして欲しいと頼んだ時のことを思い出させる.情熱を失った顔にこの治療の説明 をしていたとき,彼女は静かに次のように語った.「人生の喜びを全て終えてしまっ たときでも,人は不快な表情をしていることは出来ないわ」と.
私はこれらの人が持つ美へのこだわり,輝き続けることへの生の執着は明日への希望(エネルギー)として賞賛されるべきものだと思っている.
コンラッド ・ ローレンツは次のように断言する. 「全ての人々は子供を愛し,保護したい.これはわれわれに備わった本能である」 誰かがより愛されるために誰かに似たいと思うことを非難できるだろうか? この理論に間違いはないはずである.
――美容外科医は感情と賞賛を喚起するために可能であれば,そしてそれが望まれたものであれば,若々しい特徴を手術の中で出来るだけ創出すべきことを常に念頭に置かねばならない. 以上の如く,われわれは美と賞賛の関連を見てきたし,その成果を心と魂で感じ る深い反響音を知っているはずだ.美は目の中に,心の中に映っているものである. この真実は,セオドア ・ ゴイターによって次の表現で要約されている.「賞賛は心で愛すことである.愛することは感情で賞賛することである」と.